その日はひどい冷え込みだった。
雪が降る日なんて数えるくらいしかない香川でも、雪が降るんじゃないかって言われていたくらいだ。
夢を見たんだ。
かつて曇った表情だった私に太陽みたいに笑う事を教えたひと…
結果として死んだ私の第一発見者となり、彼女は今でも私に憤慨しているだろう。
死に急がせるためにお前に教えたんじゃないと…
いくら謝罪しても謝罪し足りないし、今となっては近づかない方がお互いのためだ。
…とは言っても、私は顔を覚えていない。
正確には思い出せない。
思い出すと、私が死んだ世界も思い出すからであろうか?
もしくは彼女に対する自責の念からであろうか?
うまい事言ってるつもりではあるが、どのツラさげて眼前に現れればいいのか知らないからというのが正直なところだ。
そんな彼女が夢に現れた
私は明晰夢…まあ、簡単に言うと睡眠中みる夢を自分でコントロールして、夢の中で思考したり色々実験出来たりする事が出来る。
思い描いた通りのことを(実現可能な範囲内で)覚醒時に体験したりすることも可能である。
しかし中には制御不能な場合がある。
その場合は概ねが予知夢である事が多い。
それほど精度が高くない予知夢なので、それがいつ起こるか、どの様にして起こるのかは読み取れない。
場合によっては、他の人物や場所に置き換えられた映像を見せられる。
しかし、経路はわからずとも結果はわかる。
最も、それでは何をどう気をつけなければならないのか理解に苦しむため、甘んじてその結果を受け入れる事となるのが常だ。
起こる未来がわかってると、
というのが先に来るため、物事に対する感動が薄くなる。
そんな予知夢に彼女が現れた。
顔も思い出せないはずなのに、鮮明に顔がわかる。
間違いない、彼女だ。
やぁ、さっと!
何であなたが?もしかして俺を許して…
むしろ、かなり傷ついた!一生許すつもりないから!
……
冗談とかいいから手短に!!
まあ、さっとの事だから「綺麗な黒髪で和風の可愛い感じの」とかでしょ?
…さっと、強面のくせにピュアだから先に言っとくけど、死ぬな!
何で俺が死ぬのさ?
んで、同じ過ちを繰り返すだろうから言ってるの。
事実だけど…
つか、それで何で同じ過ちを…
それで死なれたら、私完全に許さんから自分で考えな!!
何のための高IQなのさ、バカなの?
だいたい、あなたの事許してませんし…
つまり、俺の好きな人にいい人が出来て上段からバッサリ切り捨てられると?
男なんだから祝ってあげなよ。あと死ぬな!
だいたい破天荒で良くも悪くも突き抜けてるくせに、オクテとか冗談顔だけにしとけって感じ!
世の中、あなたが思うほど待ってはくれないし、破天荒な人間にどう接すればいいか解ってる人少ないから!
少しは普通を学びなよ!…って言ったら、アレでしょ?「普通って何よ」とか言うんだろうね…
まったく、何のためにIQ高いの?絶対に生かしきれてない!
バカ、アホ、木偶の坊!
何、罵声浴びせられて喜んでるの、ドM!
つか、これ明晰夢だよね?
あと、振るのも振られるのも交通事故みたいなものだから!
めんどくさいし胸痛むし、どんな顔して現れれば…ってなる!
だから死ぬな!
自分の好きな人に「許さない」って言われる様な事するな!
バカ、アホ、シメジ!
だから、あなたの事好きなん…だったんさ。
前見ろ、前!
…あ、前はブロークンハートか…
じゃあ、もう一個先を見ろ!五個先くらいでもいいよ
つか前もってフラれるって解ってたら、心の準備が…
…いや、それもおかしな話だし…いつもの予知夢とは様子が違うし…
思い通り話が進んでない時点で…
つか、そろそろ起きろ!そして働け!
ふざけた夢だった。
ほぼほぼ全やりとりを掲載したが、なにぶん行間を読まないといけない、文章通り読むと「???」となるのは承知の上だ。
要約すれば、
同じこと繰り返しそうだったから、嫌々忠告に来たぞ!
といった感じだ。
そして、お告げともとれる予知夢は現実のものとなった。
結果が解っててもツライだろう
正直な所、失恋というものは結果が解っていても十分ショックである。
これは恐らくどんな人であってもだ。
色恋沙汰は涙を呑む結果を誰も望んではいないので、当然の話であるし、死ぬほど人を愛したいと思う方も居るかもしれない。
傍から見たり、聞いたりすればピュアでストイックでプラトニックな話ではあるが、当事者は振る方・振られる方とも傷は大きい。
ともすれば、双方に一生消えない傷を残す事にもなる。
最も、私の場合はその失恋と別件が重なり、命を落とす結果となった。
いまさら申し開きをする気はないが、彼女がトリガーを引いて私に魔弾を浴びせた訳ではない。
だから私を憎む事で縛られないでいただきたい。
晴天に泣く曇天に笑う
恋愛経験がないって人の方が少ないだろう。
「経験」という事は、それが過去のものとなっている、つまりは振るか振られるかのどちらかの結果になった事を意味する。
何故なのか、失恋における主役は「振られた人」にスポットをあてる傾向なのだ。
判官びいきなのか、振った側が勝者で、振られた側が敗者だ。
誰か失恋したとき、同情や憐みを持ち寄って、振られた人の心の傷を癒そうとする。
歌なんかでも振られた方が美しく描かれる。
まるで被害者の様に擁護され、美化され…
しかし、ちょっと視点を変えてみると、振った相手を気遣う人も少なければ、美化して歌にしてある事も稀だ。
誰かを失恋させた人は、ある種の加害者のような立ち位置ではないだろうか?
人を振った人は、果たして悪だろうか。
相手から好かれたからと言って、好きでもない相手と付き合う事は、短い人生の無駄遣いではないだろうか?
人って後悔するだろう?
それが好きでもない相手に時間を割いたが為、好きな相手と過ごす時間が失われてしまっては後悔しか残らないであろう。
情で誰かと付き合えば、自分の感情を押し殺して相手の欲求を満たすだけである。
もちろん「付き合う」事を決めた以上は、仮初めの好意を手にするだろうが、それ自体も相手に合わせた作為的なものであったと後から気づくことになる。
誰も幸せにならない。
だから相手を振る。自らの意思で自らの幸せのために振るのだ。
失恋した人に罪悪感を覚える必要などないのだ。
それはあなたが自分自身を大切にしているという意思表示である。
好きな人には自分を大切にして欲しいと願うものである。
確かに失恋はダメージがデカイ。
でも「あの時あの人は自分を大切にしてたんだなぁ」と思えた時、好きな人が幸せになった時、心から祝福できるのだろう。
太宰治だって短編の中で「恋愛は、チャンスではないと思う。私はそれを意志だと思う。」という言葉を残しています。
決闘に敗けてその上…同情された男がどれだけ惨めな気持ちになるか考えろ
振った側は、ある種の勝者として「判官びいき」という言葉のあるこの国では罪悪感を抱かねばならない。
しかし、勝者としての振る舞いも必要である。
振った側は自らの幸せのために意思を貫いた訳である。
しかし、振った相手への罪悪感から、気まずそうに対応したり、何かしらの同情心を抱いてないだろうか?
振られるとは、決闘を申し込んで見事敗北した状態であるとも言える。
その後、同情されるという事は、いつまでもその敗北の瞬間を味わわされる事に他ならない。
ある種の無間地獄である。
永続的に苦汁を舐めらせられて「幸せになるのを祝え」と言われても…
そうだろ?
振った側も辛かった、振られる側も辛かった。
ここはひとつ痛み分けという事で何とか。
ただ、男の方が女よりロマンティックだと思う。
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